ポケットモンスター・アドバンスストーリー!

現在も現役で執筆を続けておられ、マサポケにおける数少ないはてなユーザー(←重要)の一人、春海さんの作品。ポケモンマスターになるための旅」という、ポケモン二次創作界ではごく普通のテーマに、「立派な父親に対する複雑な感情」「年頃の少女が感じる心の機微」といったテーマを織り交ぜた意欲作です。

えー、実は訳あって586もこの小説の主人公「風谷愛美」さんと立場的にかなり近いような気がするとあるキャラクターを現在動かしているのですが、そのキャラクターはどちらかというと能天気です。行動原理が非常に分かりやすい。

一方の風谷さんはどうか。どの話を見てみても、些細なことで傷つき、考え、そして悩んでいる。この年頃の少女としては非常に多感で、見ている者の胸を打ちます。私も読みながら影響を受けました。(最近こればっかりだ

さらに、彼女が置かれている「チャンピオンの娘」という立場も、彼女にとっては誇らしいと共に、大変な重責になっている。事あるごとに他人に「立場」を指摘され、「強くあって当然」という空気が彼女を締め付けている。時には見ていて痛々しいほどです。

悩んでいるのは主人公の風谷さんばかりではありません。ライバルの広樹、バタフリーのトレーナー・ショウ、壮絶な過去を持つ光さん、夢に挫折したマサキ。どれもこれも等身大の深い深い悩みを抱えていて、人間味に溢れています。溢れすぎていて、胸が痛くなることもあります。

えー、話が必要以上にメンタル面に寄りすぎているなあと思ったので、そろそろまともな感想とか指摘とかを書こうと思います。すいません。

一話一話やるべきことをきちんとこなし、書くべきところは書く、書かなくてもいいところはそれなりに、の鉄則が守られています。読んでいて「ここで切れたか。気になるから、次も読もう」と思わせる切り方がされている。見習いたいです。

この小説は、ライトノベル風の一人称型小説が多いマサポケにおいて、珍しく三人称で書かれています。春海さんはご自身の日記で、「三人称のほうがラク」だと書いています。これには私も同意です。私が一人称で書くと必要以上に情緒過多になり、とても読めたものではなくなります。いや、ホントに。

春海さんが目指している方向は分からないのですが、三人称で書けるというのは実は結構な財産になると思っています。あと、「一人称は苦手」だと仰っていますが、そんなこともないんじゃないかなあ、と思います。というのも、

「この化石は俺のもんだ!どっかいけっ」
「いや、どっかいけと言われても――」
「この化石は……」
 だんだんといらついてきた。男のいっている意味がわからないし、意味を理解しようと聞くとこれだ。
こっちの話など聞いてもくれない。支離滅裂だ。
「だからっ……私、出口が分からなくてどこにもいけないんですっ!!!」

from:http://www.yukai.jp/~okiraku/novels/harumi/hot-adv-06.txt

この部分のナレーションに当たる、

 だんだんといらついてきた。男のいっている意味がわからないし、意味を理解しようと聞くとこれだ。
こっちの話など聞いてもくれない。支離滅裂だ。

from:http://www.yukai.jp/~okiraku/novels/harumi/hot-adv-06.txt

は、主人公から見たこの場面の状態 / 主人公の心理状態が直接描写されています。その証拠に、「いらつく」「分からない」といった動詞に対応する特定の人物を指す主語がありません。もちろん場面から、これは風谷さんの行動(心理状態)であることは容易に理解できます。これは三人称ではなく、一人称です。

春海さんは気付いていないかもしれませんが、春海さんはストーリー中で「三人称←→一人称」のスイッチを無意識のうちに切り替えているのだと思います。

他の場面と比較してみましょう。

「ああ、そのことか。あんまり話したくはないんだが……。仕方ねえ、アンタはトクベツだ。話してもいいぞ」
 みつは腕を組み、まあ座れやと地べたを指差す。愛海はちょっとイヤだったが、仕方なく座ることにした。
いつの間にかイクスとみかんは眠っている。化石など愛海以上に興味ないのだろう。
同じポケモンなのに。
「あれは、俺が十歳になったばかりのことだった」

from:http://www.yukai.jp/~okiraku/novels/harumi/hot-adv-06.txt

この場面でのナレーションに当たる、

 みつは腕を組み、まあ座れやと地べたを指差す。愛海はちょっとイヤだったが、仕方なく座ることにした。
いつの間にかイクスとみかんは眠っている。化石など愛海以上に興味ないのだろう。同じポケモンなのに。

from:http://www.yukai.jp/~okiraku/novels/harumi/hot-adv-06.txt

は、「組む」「指差す」「座る」「眠る」「興味が無い」といったすべての動詞に、「みつ」「愛美」「イクスとみかん」という対応する主語が存在します。これは三人称です。

思うに、春海さんの小説技法の根底には「三人称」があるのでしょうが、その端々に「一人称」が現れているのではないでしょうか。これを長所と取るか短所と取るかは執筆者である春海さん次第ですが、少なくとも場数を踏めば「三人称→一人称」への移行はそれほど難しくないのでは、と思います。

春海さんは物書きのプロを目指していると書かれています。実際日記を見ていても、懸賞小説に応募なさっていたりと、かなり意欲的に活動しています。趣味の物書きが言うのも何ですが、夢の実現に向けて努力を続けてください。

えー、全体的に感想なのかアドバイスなのか分からない文章になってしまいましたが、以上です。春海さん、いろいろと抱え込みすぎない程度に頑張ってください。タカマサさんみたいに嘔吐寸前まで行くのは危険ですから(ひどすぎる&まだこのネタを引っ張るのか