一人称と三人称
タイトルはかなり仰々しいですが、内容はそれほどでもないので、気楽に読み流してください。
これは昨日のエントリとも重複することなのですが、どうも世間一般、特にマサポケの読者層が愛読していると思われる「ライトノベル」界では、主として「一人称」が使われているようです。例えば、こんな感じで。
気が付くと、僕はベッドの上で横になっていた。どこかの病院のようだ。首を動かして、窓から外を見てみる。しとしとと雨が降っていて、ここがどこかはよく分からない。僕以外に、この病室にいる人はいないみたいだ。病室の中は気が遠くなるほど静かで、僕はなんだか不安な気持ちになった。
それに対して、「Enable」ではほとんどの場面において、「三人称」で小説を書いています。同じ場面を「Enable」風に直すと、こんな感じになるでしょうか。
ベッドで横になっていた少年が、ゆっくりと目を開き、起き上がった。少年は自分がどこにいるのか見当も付かない様子で、雨の降りしきる外を見つめている。少年のいる病室はぞっとするほど静かで、何の音も聞こえてこない。少年以外には、この不気味な静けさを持つ病室にいる患者はいないようだ。
両者の文を見比べながら、それぞれの長所・短所を挙げてみます。
一人称
長所
- 物語に強い臨場感が出る。
- 読者の感情移入が容易い。
- 主人公の性格を特に意識せずともアピールできる。
短所
- 何か小さな物事を説明するのにも、「主人公」あるいは「登場人物」というフィルタが必要。
- 読者に細かな情景を想像させることは難しい。
- 情緒過多に陥りやすい。
三人称
長所
- 鳥瞰的に物事を説明できる。
- 冷静な印象を与えやすい。
- 読者に細かな情景を想像させるのが比較的簡単。
短所
- 登場人物の感情の機微を説明するのが難しい。
- どこか「よそよそしい」イメージが付きまとう。
- 説明的になりがち。
どちらも一長一短といったところです。ですが私は、技法しだいで一方の「長所」を取り込むことも可能だと思っていますし、「短所」を克服することも不可能ではないと思っています。
例えば、「一人称」における短所「情緒過多に陥りやすい」は、視点となる登場人物の性格を冷静なものにしてしまうことで、ほぼ解決を見ることができます。例えば、こんな感じで。
気が付くと、僕はベッドの上で横になっていた。どうやら、どこかの病院のようだ。僕は首を動かして、窓から外を見てみる。しとしとと雨が降っていて、ここがどこかはよく分からない。僕以外に、この病室にいる人はいないようだ。病室の中は気が遠くなるほど静かで、僕以外に、ここには誰もいないようだ。
また、「三人称」における短所「どこか『よそよそしい』イメージが付きまとう」も、描写しだいでは克服することができると思っています。
ベッドで横になっていた少年が、ゆっくりと目を開き、起き上がった。少年は自分がどこにいるのか見当も付かない様子で、雨の降りしきる外を見つめている。少年のいる病室はぞっとするほど静かで、何の音も聞こえてこない。少年以外には、この不気味な静けさを持つ病室にいる患者はいないようだ。言い知れぬ不安が、少年の胸に覆いかぶさってきた。ここはどこだ、なぜ僕はここにいる。何も知らないことへの恐怖が、少年の心をギリギリと締め付けた。
総括すると、「一人称」「三人称」にはそれぞれ持ち味があり、執筆者はそれぞれ自分のスタイルに応じて選択すれば良いだけのことだと思います。586はそう考えています。ただ、ときどき一人称に猛烈に浮気したくなる時期があり、結構手を焼いてるのですが……